聖女のいない国に、祝福は訪れない
(おかしい……)

 癒やしの力をあの程度使用したところで、倒れるなどあり得ない。
 自分の身体が言うことを効かない恐怖に怯えながらゆっくりと瞳を開けば、こちらを覗き込むセドリックの姿が視界いっぱいに飛び込んでくる。

「へい、か……?」
「安静にしていろ。癒やしの力を使いすぎて倒れたんだ」
「……ありえま、せん……」

 セドリックはフリジアの体調を労ると、彼女の髪を優しく撫でつけた。

「あの程度で、倒れる、など……」
「アーデンフォルカには、先代の聖女の加護がまだ残っている。君の力とぶつかり合い、逆流したのだろう」
「同じ、聖女なのに……」
「それもあと、五か月の辛抱だ」
「……消滅、するのですか……」
「ああ。先代の加護は、次代の聖女が生まれてから二十年間有効だからな」

 フリジアはあることに気づき、心を痛めた。

(陛下のお母様が亡くなった直後、私が生まれているのだとしたら……)

 セドリックにとってフリジアの誕生日は、母親の命日になる。

 彼女の誕生日を祝ってくれる人などこの世には存在しなかったが、もしも聖女として祭り上げられるようになれば――セドリックは苦しむだろう。
< 73 / 88 >

この作品をシェア

pagetop