聖女のいない国に、祝福は訪れない
 外に出ることを禁じられた。
 耳を塞がれ、小鳥の囀りを聞くことさえ許されない。
 目隠しをされた。
 四肢を拘束され、満足な食事すらも与えられない。

 フリジアが聖女として民の前へ姿を見せるのは、いつしか一年に一度の聖夜祭だけになってしまった。

(まるで、家畜のような扱い……)

 フリジアはフェドクガに飼われている。

 人間であることすら奪われた彼女が光や音も届かない部屋で監禁され、どれほどの時が経ったのか。

『彼女こそが、真の聖女である!』

 この世界でたった一人しか存在できないはずの聖女が、もう一人現れたと語る皇太子によって――主人公はあっと言う間に聖女の座を奪われた。

『貴様との婚約は破棄とし、私は新たな聖女と婚約を結ぶ!』

 フリジアは聖女を騙る女に、見覚えがあることに気づく。

(あり得ない。フェドクガは一体、何を考えているの?)

 その女の顔だけは、絶対に忘れられるはずがない。
 皇太子の隣で手足を拘束されたフリジアを見下し微笑んでいたのは、双子の妹。
 ニセラ・リエルルだったからだ。
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