聖女のいない国に、祝福は訪れない
『光栄ですぅ、殿下!』

 フリジアはようやく不自由を強要するフェドクガと婚約破棄が出来たと胸を撫で下ろしたが、喜んでいる状況ではないのは確かだった。

(この国が豊かな富を築いているのは、私のおかげなのに……)

 聖女が暮らす国は、豊かな発展と幸福が約束される。
 だからこそ他国は聖女であるフリジアを得ようと、この国に攻め入ろうと試みていた。

(争いの絶えないこの地で、偽物の聖女を崇めるようになれば……)

 この国がそうした災厄や大きな争いごとに巻き込まれることなく豊かであり続けるのは、聖女の加護があるからだ。
 それがなくなればたくさんの命が失われてしまうと焦ったフリジアは、必死にフェドクガへ伝える。

『考え直してください!』
『ふん。この状況で命乞いとは……』

 だが、彼は彼女の言葉に聞く耳を持たなかった。
 皇太子は聖女がどう言った存在であるかを、よく理解していなかったからだ。

『この者は聖女を騙り、私の妻になろうとした! 死を持って、その罪を償え!』

 だからこそ、これほど恐ろしい判断を下せる。

(どうせこうなるなら、もっと早くに命を絶てばよかった)

 前方から剣の切っ先を突き付けられた主人公は、串刺しにされるよりも自らの崖下へ飛び込むことを選び――。
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