聖女のいない国に、祝福は訪れない
(この子はリーダーみたいだけど……。群れから離れても、いいの……?)

 フリジアが不安になりながら頭の上に乗ってごきげんなハミングバードを見上げていれば、鳥の大群に襲われて若干衣服が薄汚れたセドリックが大股開きでずんずんと彼女の元へとやってくる。

「リエルル公爵令嬢」
「陛下……」
「怪我はないか」
「……はい。私は大丈夫です……」
「ならいい。こんなに早く、彼らがやってくるなどこちらも想定外のことでな……。事前に話をできず、申し訳なかった」
「いえ……。こちらこそ、お騒がせしてしまい……」

 フリジアは頭を下げようと前かがみになったタイミングで、はっと頭を抑えた。
 頭上にハミングバードが乗っていることを思い出したからだ。

「――無事でよかった」

 バランスを崩しかけて大慌ての鳥に謝罪をしながら元の体勢に戻った彼女を目にしたセドリックは、彼女の耳元でそう囁くとフリジアを抱きしめた。

「今回は君の味方であったから、危害を加えられずに済んだが……。異変があれば、すぐに俺を呼んでくれ」
「……承知いたしました……」

 セドリックは彼女の無事を確認すると、仕事があると言って中庭を去っていく。

(先代の聖女が好きなフリージアの色、聞き忘れてしまった……)

 彼の背中をじっと見送ったフリジアはあとからその事実に気づいたが、今さら忙しい彼を呼び止めて聞くわけにはいかず――黙ってセドリックを見送った。
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