聖女のいない国に、祝福は訪れない
「誕生日を盛大に祝われたくない――それは君の本心か」
「神に誓って……」
「わかった。では、夜に式典のみ行おう」
「それは一体……どのような催しなのでしょうか……」
「体験すればわかる」

 セドリックは具体的な内容を口にすれば、フリジアが嫌がると考えたのだろう。
 詳細な内容を濁した彼は、彼女を安心させるように髪を梳きながら囁いた。

「明日は早い。もう寝ろ」

 睡眠を促されたフリジアは、覚悟を決める。
 今日を逃したら、聞きたかったことを聞けずに先代聖女の追悼式を迎えてしまうからだ。

 だから彼の指示に従うことなく、か細い声で囁いた。

「ずっと、疑問に思っていたことがあるのですが……」
「なんだ」
「先代の聖女様は……。何色のフリージアが、一番お好きだったのでしょうか……」

 フリジアから問いかけられたセドリックは、目を見開くと難しい顔をした。
 彼女は機嫌を損ねたのではと不安になったが、彼はすぐに重苦しい口を紡ぐ。

「母上は赤、父上はピンク。俺はオレンジだ」

 フリジアはその話を耳にした時、聞き間違いなのではないかと困惑した。
 男性でピンク色を好むなど、珍しいと思ったからだ。
< 93 / 120 >

この作品をシェア

pagetop