聖女のいない国に、祝福は訪れない
「母上は外見こそ女性らしい姿をしていたが……。中身はその、お転婆でな……」
「天真爛漫だったのですね……」
「他人に迷惑を掛けるタイプのな……」

 聖女は他国から狙われることも多い。
 毒を守られたり、暗殺されかけたり。
 先代聖女はその美しい外見からは想像もつかないほど素晴らしき剣の腕前を持っており、護衛騎士の仕事を奪っては高笑いしていたようだ。

(なんだか、聞いていた話と違う……)

 王城の人達は皆、先代聖女のことを「フリジアとよく似ていた」と語るが、それは中身のことではなかったのかもしれない。

 話を聞く限りでは、性格だけならニセラとそっくりだ。

 彼女は双子の妹だけではなく、先代聖女とは真逆の自分が本当に新たな聖女として歓迎してもらえるのだろうかと不安になった。

「父上は母に、内面も女性らしくなってほしいと願い、ピンクのフリージアを贈った……」
「……では、陛下がオレンジと言ったのは……」
「……俺にとって母上は、燃え盛る炎だ。普段は火の勢いが強いが、父の前では消え入りそうなほど弱くなる……」
「では、先代聖女の赤は……」
「母上は自身の前で散っていった人々を忘れないよう、赤を纏っているそうだ」

 セドリックが三人バラバラの色を口にした理由を耳にしたフリジアは、合点がいく。
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