美貌の公爵令嬢フェリシアは騎士様が好き
「私、もう死んでもいいわ。」
「何を言ってるんだよ、フェリシアは。」
「お聞きになったでしょう?アラン様に可愛いって言われたのよ?」
「そうだね、よかったね。早く挨拶をして。」

「アラン様……よろしくお願い致します……」

 フェリシアは顔を上げずにもじもじしたまま、ぼそぼそと挨拶をした。

「よろしくお願い致します、フェリシア様。一生懸命務めさせていただきます!」

 フェリシアはばっと顔を上げた。至近距離でまともに目を合わせたアランは気を失いかけた。フェリシアの美しさは凶器だ。息ができない。

「アランも慣れないといけないね。」
「が……頑張ります。」

 フェリシアは大きな目をぱちぱちさせてじっと見つめてくる。目から星がたくさん飛び出しているように見える。

「アラン様……あの、大会でのご活躍……とても素晴らしかったですわ……」
「あ……ありがとうございます。」

「本当に、私の護衛でよろしいのですか?アラン様なら第1部隊でもご活躍できると思いますのに。」
「フェリシア様が応援してくださったから、決勝で勝つことができました。私のような新人では不安かもしれませんが、精一杯頑張ります。」
「ありがとうございます、アラン様……」

 フェリシアはアランの手をそっと握った。アランは氷のように硬直している。それを見てマリウスとサーシャはくすくす笑っている。

「アラン、フェリシアをよろしくね。もう公爵邸に向かって良いよ。」
「私1人でですか!?」

 フェリシアの乗った馬車が襲われるのは日常茶飯事なのに、護衛が1人だとはあまりにも心許ない。

「フェリシアの護衛は君1人だからね。でも城を歩いてから帰ってもらおうかな。サーシャ、手伝ってあげて。」
「承知いたしました。」

 執務室を出ようとすると、フェリシアはアランの手を強く握りしめた。驚いてフェリシアを見ると優しく微笑まれて、また息が止まりそうになった。

「アラン、フェリシアは君のことが好きなんだ。ずっと離さないと思うけど頑張って。」

 フェリシアに手を握られているなんてどうしたらいいかわからないけれど嬉しい。手を離せないのは不便だけれど、ずっとこのままでも良いかとも思ってしまう。フェリシアはまだ大きな瞳をこちらへ向けている。

「参りましょう、アラン様。」
「は、はい……」

 自分はこの状況に慣れることができるのだろうか。今だってちゃんと息ができているのかわからない。アランは一生懸命息を吸ってフェリシアに手を握られたまま執務室を出て行った。
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