美貌の公爵令嬢フェリシアは騎士様が好き

公爵邸へ

 執務室を出た時にアランの手を握っていたフェリシアは、今はアランの右腕にしがみついている。ものすごくしっかり掴まれていて、腕がもげそうだが悪い気はしない。

「フェリシア様、いつまでこのような……」
「お嫌なのですか?」
「いえ……そうではないのですが……」
「ではよろしいではありませんか。ふふふ。」

 アランとフェリシアは、サーシャに先導されて城の中を歩いていた。美しいフェリシアはとにかく目立つ。フェリシアを見た人は皆、立ち止まってフェリシアを見つめている。遠くから見ている人もいるようだ。

「サーシャ、次はどこへ行くの?」
「こちらでございます。」
「アラン様、行きましょう?」
「は、はい……」

 サーシャに言われた場所はどこも人が多い。わざわざ人の多い場所を選んで歩いているように見える。

「サーシャさん、馬車へ向かうのではないのですか?」
「フェリシア様に護衛がいることを知っていただく必要がございます。」

 フェリシアは日常的に危険に晒されている。護衛として自分がフェリシアのそばにいることを周知すれば抑制になるのかもしれない。アランは汗をかきながらも、人の多い場所でフェリシアにしがみつかれながら、なんとか任務をこなした。

 しばらく城の中を練り歩いた後、アランとフェリシアはようやく馬車のある場所にたどり着いた。

「アラン様、ではよろしくお願いします。」
「本当に私だけで大丈夫なのでしょうか。」
「大丈夫ですよ。周知できましたから。」
「承知いたしました。」

 アランは半信半疑ながらもフェリシアを馬車へエスコートした。フェリシアが馬車に乗り込むと、フェリシアはアランの手を掴んだまま馬車の中へ引きずり込んだ。サーシャが冷静に馬車の扉を閉めると、静かに馬車が出発した。

「なんと静かな……」

 サーシャは護衛のいないフェリシアの馬車が見えなくなるまで見つめていた。
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