美貌の公爵令嬢フェリシアは騎士様が好き
 フェリシアのメイドのマリーは、アランとフェリシアが執務室を出た後、マリウスからフェリシアの父ロベルト宛の手紙を受け取って先に公爵邸へ戻っていた。マリーは公爵邸に戻るとすぐにロベルトへ手紙を届けた。

 ロベルトは、マリーから手紙を受け取ってすぐに手紙を開いた。アランの経歴書が入っている。

 大会で優勝したのが入隊したばかりの新人騎士だと聞いたロベルトは落胆していた。ここ数年、大会で優勝するのは現役の隊長ばかりだった。隊長ならどうにかすれば勲章くらい与えることができる。爵位がなくても勲章を持っている騎士団の隊長ならば、娘の結婚相手として認めてもいいと思っていたのに、新人騎士ではどうにもならない。

 どうして新人騎士が優勝したのかわからない。この世には運だとか偶然だとかまぐれだとかいう言葉があるのだ。新人騎士が実力で第2部隊長に勝るとは考えにくい。アランは爵位を持っていないし、大した手柄もなく、郊外出身で、両親もいないという。ロベルトから見たら不安要素しかない人材だった。

「大丈夫なのか、本当に……」
「どうなさったのですか?」

 フェリシアの母ソフィアが、心配そうにロベルトの顔を覗き込んだ。

「殿下からフェリシアの護衛となる男の経歴書を頂いたんだ。」

 ロベルトがソフィアにアランの経歴書を差し出すと、ソフィアは経歴書を見るなり微笑んだ。

「あら、フェリシアにぴったりじゃない。」
「こんな男がか?」

 アランに対する評価は、ロベルトとソフィアとでは真逆だった。ソフィアはアランの良いところをつらつらと述べるもロベルトは全く納得できない。マリウスの手紙にもなぜか「叔父上は絶対に気にいるはず」と書かれている。マリウスはどこをどう見てそう思うのだろうか。ロベルトはマリウスの言葉ですら信じられなかった。

 今日はその新人騎士アランを連れてフェリシアが屋敷へ戻ってくることになっている。ロベルトは全く期待せずに、ソフィアと共にフェリシアの馬車を迎えるために玄関へ向かった。
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