美貌の公爵令嬢フェリシアは騎士様が好き
「アラン様、次はお風呂ですわ。」
「え?」
「こっちです。来てください。」

 アランは挙動不審になりながら、フェリシアに腕を引かれて部屋の奥へ進んでいった。マリーはフェリシアの横にピタリとついて、オルタンスは少し後ろからついてくる。部屋の中にいるのに誰かに狙われているかのような厳重な警備だ。

 腕を引いていたフェリシアは牢獄のような頑丈な檻で囲われた部屋の前で足を止めた。

「ここが……バスルーム?なのですか?」
「そうよ。マリー、開けてちょうだい。」
「はい。」

 マリーはどこからか鍵を取り出すといくつもの南京錠に鍵を差して手際よく開けて行く。鍵を開けた後はナンバーロックのある鍵が出て来てようやく檻の扉が開いた。檻の中に入るとまた扉があって、鍵がかかっていた。バスルームにたどり着くまでに3枚の扉を抜けて、ようやくいわゆるバスルームが見えてきた。

「フェリシア様は毎日こんなことをしているのですか。」
「もう慣れましたわ。アラン様、来てください。」
「え?」

 フェリシアはアランの腕を引いて中へ連れ込もうとする。

「まままままま待ってください!」
「どうなさったのですか?」
「ここは、バスルームなのですよね?」
「そうですが何か?」
「さすがに、ここから先へ入ることはできません。」
「どうしてですか?」
「私は護衛ですから……そ、外でお待ちしています。」

 腕を掴んでいるフェリシアの大きな瞳にみるみる涙が溜まっていく。アランは息を呑んだ。そんな顔をされたら「仕方ないな。わかったよ、一緒に入るから。」なんて口走ってしまいそうだ。アランは慌てて顔を逸らした。

「アラン様、バスルームは最も危険度が高い場所です。護衛の随行は必須です。」

 マリーからまるで上司のようにぴしゃりと言われてアランは反射的に「わかりました!」と返事をしそうになった口を慌てて抑えた。

「アラン様……?」
「フェリシア様、申し訳ありません。私は今日配属されたばかりの新人ですので、バスルームの護衛はもう少しフェリシア様の護衛に慣れてからにさせてください!」

 アランはフェリシアに頭を下げた。フェリシアは寂しかったけれど、それだけアランが自分の護衛に真剣に向き合っているのだと思って胸が熱くなった。

「わかりました。部屋で待っていてくださいね。どこにも行ってはいけませんよ?」
「はい!」

 フェリシアがアランに抱き着くと、アランはそれとなくフェリシアを抱きしめた。バスルームへ向かうフェリシアとマリーを見送って、アランはオルタンスと共にバスルームを出た。
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