美貌の公爵令嬢フェリシアは騎士様が好き
 大会の前日、マリウスはフェリシアに会うため公爵邸を訪れた。

「フェリシア、今日は君にとっておきのプレゼントがあるんだ。」
「プレゼント?まぁ、何かしら。」

 マリウスはフェリシアに封筒を差し出した。大会の招待状だ。

「行きたいってずっと言ってたでしょ?これまでは陛下の主催だったから招待できなかったけど、今年は俺が主催なんだ。だから来てよ。みんな喜ぶと思うから。」

 フェリシアは封筒を手に持ったまま震えている。マリウスが不安気に見ていると、フェリシアはソファーに倒れ込んだ。

「フェリシア!?」
「あぁお兄様!こんなに幸せなことがあって良いのでしょうか!夢みたいだわ!毎年どうやったら行けるのかとそればかり考えていましたの!ありがとうお兄様!私はなんて幸せ者なのでしょう!」
「ははは、喜んでくれて嬉しいよ。」

 フェリシアは封筒を抱えて喜びを噛み締めた。長年の夢が叶うのだ。この日は何があっても行こう。病気になっても怪我をしても世界が破滅しても行こう。

「それでね、フェリシアにお願いがあるんだ。」
「なんでございましょうか。お兄様のお願いならなんでもお聞きしますわ。」
「大会の優勝者を君の護衛にしようと思うんだ。」
「優勝した方が……わ、わわ私の護衛……ですって?」

 歓喜でぷるぷる震えていたフェリシアは、今度は体が固まっている。

「どんな人が優勝しても、護衛として受け入れて欲しいんだ。」
「で、でも……」
「言いたいことはわかる。優勝するほどの実力者なら、第1部隊へ移籍した方が良いって言うんだよね。」
「そうですわ。私の護衛なんかなさらずに、騎士様として腕を磨いて……」

 優勝者が自分の護衛になるなんて夢のような話だが、優勝するような剣の使い手ならば、個人の護衛でなく第1部隊で存分に力を発揮して欲しい。フェリシアはそう思っていた。

「でももう決まったことなんだ。騎士たちはね、君の護衛がしたくて参加してるんだよ。」
「わ……私の護衛をしたくて?それは、それはつまり私をめぐって騎士様が争うということ!?……あぁ!」

 フェリシアは胸を押さえて再び倒れ込んだ。その様子を見てマリウスは笑った。

「お兄様、ヴィクトール様やファリス様も出場されるのですか?」
「誰が出るのかは言えないよ。でもヴィクトールは出ない。彼には審判をやってもらうからね。」
「ではファリス様はいらっしゃるわね。昨年はファリス様が優勝されたんだもの。あぁ、私の護衛をファリス様がなさるかもしれないんだわ……ふふ、うふふふふ……」
「楽しそうだね。」

 ヴィクトールは第1部隊の隊長、ファリスは第2部隊の隊長だ。マリウスはフェリシアの様子を見て笑っていたが、そばに控えていたサーシャやフェリシアのメイドのマリーは、興奮してバタバタ倒れるフェリシアを見て引いていた。
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