美貌の公爵令嬢フェリシアは騎士様が好き

騎士の腕試し大会

　大会当日、会場にフェリシアが現れるとどよめきがおきた。フェリシアのドレスは場違いなほど華やかだ。今日は大会を観戦するはずだが、オペラか何かと勘違いしているのだろうか。マリウスは会場を優雅に練り歩くフェリシアを見てため息をついた。

「何をやってるだよ、フェリシアは……」
「さすがというか、なんというか……」

　マリウスとサーシャは、貴賓席からフェリシアの様子を見ていた。フェリシアが無駄に笑顔を振りまいているせいでパタパタと騎士たちが倒れている。大会が始まる前から医療班が出る始末だ。大会は開催できるのか心配していると、フェリシアはこの世を支配する女王のような風格で貴賓席に現れた。

「殿下……この神聖なる大会にご招待くださり、感謝申し上げます。私は、この日をとても心待ちにしておりました……」
「う、うん……ずいぶんと長い見世物だったね。」
「お褒めに預かり光栄ですわ。おほ、おほほほ。」

　フェリシアはテンションが上がり過ぎて明らかに様子がおかしい。マリウスはできるだけ見ないようにして、フェリシアを席に座らせた。

「来年は主催できるかわからないから、ちゃんと見ておいてね。」
「わかりましたわ。ありがとうございます、殿下。」

　フェリシアは席に座るとすかさずオペラグラスを手にして覗き込んだ。やはりここを劇場が何かと勘違いしているのだろう。オペラグラスなんて使わなくてもちゃんと見えるのだ。マリウスは何度目かわからないため息をついた。

「フェリシア、外に聞こえないようにはなってるけど、叫ぶのはやめてね。君のことをみんなが見てる。目立ってしまうから立ち上がるのもだめだよ。」
「心得ております。」

　フェリシアは優雅に微笑んだ。フェリシアが微笑むたびに会場からはざわめきが起きる。会場の熱気が高まるのと同じように貴賓席にいるフェリシアの熱気も上昇していく。体から熱を発しているようで、マリウスは熱いなと思っていた。

「フェリシア、お願いは覚えてるよね？優勝者の護衛はちゃんと受けるんだよ？」
「わかっております。私は、ファリス様がいらっしゃるのを心待ちにしておりますわ。」
「ファリスだとは決まっていない。他の人だったとしてもちゃんと受けるんだよ？わかった？」
「わかっておりますわ。どの方がいらしたとしても騎士様には変わりありません！あぁもうワクワクしすぎて胸が苦しいですわ！皆さま、がんばって～！」

　フェリシアが優雅に手を振ると会場から歓声が巻き起こった。会場から見えるフェリシアはただの美しい女性なのかもしれないが、今のフェリシアは獲物を狙う獣のようだ。マリウスはフェリシアの悪いところが外に伝わらないようにと願った。