【完結】アシュリンと魔法の絵本
 そしてそのままのスピードで空の道を飛び続け、あっという間にリーリクルにたどりついた。アシュリンはやっぱり空の道は早いけれど、ちょっと物足りないと考えながら陸路に向かう。

 陸路(りくろ)の少し前に、箱が置かれているので赤いひもをつけた手首を入れる。ぷつりとひもが切れて、『陸路をお楽しみください』と箱がしゃべった。

「……なんで切れるときだけ話すんだろ」
「エルピスの謎だよね」

 ラルフも同じことを思っていたのか、とアシュリンの胸がときめく。

 この世界は不思議なことがあふれているけれど、みんなそれを当たり前と思って生活しているから、アシュリンのように疑問に思っても『それがこの世界の普通だから』で話を終わらせてしまう人が多かった。

 自分と同じ目線で考えてくれる人がいるということが、こんなにもうれしいものだとアシュリンはラルフと知り合って初めて知ったのだ。

「リーリクルのおじいちゃんたちの家までは、歩きだよ」
「うん、いいよ。はぁ~、空の道ってやっぱり混雑しているから、陸路のほうが好きだなぁ」
「旅している~って感じもするよね!」

 ほうきから()りて、リュックにしまい、ぐっぐっと屈伸(くっしん)をしたり腕を伸ばしたりと柔軟(じゅうなん)体操をして、靴をトントンと鳴らすアシュリン。

 ラルフも同じように身体を動かして、辺りを見渡す。

「陸路からでも湖って見えるんだね」
「そうみたい! えーっと……たい、こ? だから、見えるんじゃないかな!」
「たいこ……ああ、大湖? 確かにこんなに大きな湖はめずらしいかも……」
「でしょ? 湖で遊ぼうね!」

 アシュリンの表情がこれ以上ないほど輝いていて、ラルフは思わずこくりとうなずいた。
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