【完結】アシュリンと魔法の絵本
 ボートを降りて、代わりに浮き輪を取り出して、湖の中に入る。

 冷たい湖水(こすい)に一度身体を震わせるアシュリンだったが、すぐに慣れてバシャバシャと音を立てて泳ぎ出した。

「気持ちいいー!」

 やっぱりこの(みずうみ)で泳ぐのは格別だと感じる。小さい頃はあまりにも大きな湖で怖かったが、一度湖に入ってしまえばその冷たさと浮遊感のとりこになった。

「ラルフ、こっちこっち!」

 大きく手を振ってラルフを誘う。

 ラルフは辺りを見渡して、浮き輪を使ってアシュリンのほうにゆっくり移動した。

「……あれ、もしかして、泳いだことない?」
「うん。なんかこの浮遊感、不思議な感じ」

 ぷかぷかと浮いているのは浮き輪のおかげだ。だが、まだ浅いところだから危険ではないだろうと判断して、アシュリンのあとを追ったラルフ。

 アシュリンの質問に軽く頬をかくのを見て、「そっかぁ」と小さく言葉をこぼした。

「海では泳がなかったの?」
「見ただけで、入りはしなかったな。そういえば」

 ラルフは以前見た海を思い出し、目を閉じた。今でもハッキリとあの日見た海の光景がよみがえる。

「じゃあ、今度行ったら泳いでみようよ! わたしも泳いでみたいし」

 当たり前のように未来のことを言われて、ラルフはぽかんと口を開け、それからふっと笑みを浮かべた。
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