【完結】アシュリンと魔法の絵本
 アシュリンの提案に、ラルフは目を大きく見開き、こくっとうなずいた。

 こんなに気持ちの良い朝だから、身体を動かしたいという彼女の気持ちもわかったからだ。二人は屈伸(くっしん)をしたり腕を伸ばしたりと柔軟(じゅうなん)体操を始め、朝の空気を思い切り吸い込む。

「はー、いやされるぅー」

 ぎょっとしたようにアシュリンを見るラルフ。十歳の少女の言葉とは思えなかったからだ。ノワールは「そうだねー」と彼女に同意していたし、もしかしたら家族の影響(えいきょう)なのかもしれないと考え、動きを止めた。

「ラルフ、どうしたの?」
「アシュリンはこの柔軟体操、誰から習ったの?」
「家族にだよ! お父さんが柔軟体操の最後に深呼吸するの!」
「そのときに『いやされる』って言ってた?」
「うん!」

 元気よく返事をするアシュリン。ラルフは彼女の様子を見て納得した。父親の真似で口にしているだけで、おそらく言葉の意味を理解していない、と。

「身体もぽかぽかしてきたし、朝ごはん食べたら出発しよ?」
「うん、そうしよう」

 ラルフの返事を聞いて、アシュリンは明るく笑った。こんぺいとうをポケットにしまい、テントに戻ろうとして足を止め、彼を振り返る。

「一緒に食べよ?」

 そう誘うと、アシュリンは返事を聞かずにテントに入ってしまう。残されたラルフとルプトゥムは互いに視線を交わし、ラルフはもふっとルプトゥムの頭を撫でた。

 彼女を追うように、ラルフたちもテントの中に入る。

 テントの中は昨日と同じようにテーブルと椅子が置かれ、テーブルの上にはアシュリンがリュックから取り出した食事が並んでいた。

「お腹ぺこぺこ! たべよー!」
「今日もごちそうになっていいの?」
「もちろん! 一緒に食べたほうがおいしいし」
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