【完結】アシュリンと魔法の絵本
 兄のアンディがなんども大丈夫だよ、とアシュリンを励ましてくれたから、なんとか彼女の頬をぷにっと触ることができた。そして、よくわからない言葉を発しながら、アシュリンの指をきゅっと(にぎ)る妹になにかが胸に()きあがる。

 きっとそれは、『(いと)しさ』だった。

「赤ちゃんってすんごく小さくて、自分のことぜんぜんできなくて……ミルクやオムツを変えたことだってあるんだよ」

 (ほこ)らしげに胸を張るアシュリン。彼女の話を興味深そうに聞くラルフ。

「でもエレノアはすっごく元気だったにゃ」
「ノワールのしっぽをつかんだり、引っ張ったりね」
「自分の使い魔いじればいいにゃ!」

 エレノアにしっぽをおもちゃにされたことを思い出したのか、ノワールの毛がぶわわと逆立つ。

「しっぽはいやだな……」
「にゃー!」

 ルプトゥムが自分のしっぽを足に巻き付ける。……もしかしたら、ラルフが赤ちゃんの頃、ルプトゥムもノワールと同じ目にあっていたのかもしれないと考え、アシュリンはこっそりと笑う。

「まぁ、アシュリンのときも大変だったにゃ」
「えっ」
「アシュリンはぬいぐるみのようにぎゅーってしてたにゃ」

 まったく覚えていないアシュリンは慌てた。生まれたての使い魔であるノワールが十年前の記憶を持っていることに驚いたのだ。
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