アシュリンと魔法の絵本
 兄が旅立った日を、覚えているからだろうか、と考えてポロポロと大粒の涙を流すエレノアの手を離し、代わりにハンカチを取り出して彼女の涙を拭う。

「たくさん、手紙を書くよ。エレノアがさびしくないように」

 本当? とエレノアが目で問うので、アシュリンは何度もうなずいた。

 きっと、両親はこういう日が来ると知っていて、アシュリンに文字の読み書きを教えていたのだろうと考えて、立ち上がる。

「わたし、旅に出る! どんな『たからもの』を見つけられるかわからないけれど、いろんなところを旅してみたい!」
『そうでしょう、そうでしょう! 旅立ちのときがきました。ともに最高の夢を描きましょう!』

 アシュリンが旅に前向きなことを発言すると、今までパタパタと動いていた本がいきなり声を上げた。

 本の声は高すぎず、低すぎず、ちょうど良い声だ。だが、男でも女でもない中性的な声で、どこか興奮しているように聞こえるが耳ざわりな声ではなかった。アシュリンは本に手を伸ばす。

 呼ばれた、と思ったのか本はすんなりとアシュリンの胸に飛び込んできた。

『私のページをたくさん使ってくださいね!』
「う、うん……。でも、どうやって使えばいいの……?」
「簡単だよ。一日一回、夜に本に触れるだけでいい」
「そうなの?」
「うん。そうすれば、本が勝手にアシュリンの記憶を読み取って、ページが増えていくよ」
「アシュリンだけの物語。旅を楽しんでおいで」

 グリシャに本の使い方を聞き、アシュリンはぎゅっと本を抱きしめた。ホイットニーに柔らかい口調で伝えられた言葉に、彼女は一瞬うつむいて、すぐにぱっと笑顔を浮かべる。

「うん、楽しむね!」
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