【完結】アシュリンと魔法の絵本
 ひょんなことがきっかけで、サラダをおいしく食べることができた。

 アンディがいた頃よりも、できることが増えた。そのことを兄に話すと、うんうんと相槌(あいづち)を打ちながら聞いてくれる。

 アシュリンの話はアンディにとって知らなかったことばかりなので、ときどき彼女の成長に目を丸くしたり、口を開けたりと表情がいそがしく、見ていて飽きない。

「やっぱり、三年のあいだにいろいろあったんだな」
「そりゃあね。お兄ちゃんは、これからどこに向かうの?」
「――実は、家に帰るつもりなんだ」

 その言葉に、アシュリンは目をこれでもかというほど大きく見開いた。

 もっと旅を続けるのかと思っていたからだ。アシュリンの様子に、アンディは軽く目元を細める。

「アシュリンも旅立って、エレノアがさびしがっているみたいだし……」
「……本当に、お兄ちゃんはそれでいいの?」
「うん、家から始まった物語だ。終わりも家にするつもり」

 いつの間にか食事を終えたアンディが、本を呼ぶ。呼ばれた本はパッと彼の前に(あらわ)れた。彼は本を持ってパラパラとページをめくり、真っ白なページをアシュリンに見せた。

「ここを、最後のページにするつもりなんだ」
「お兄ちゃんの旅の終わり、かぁ。きっとみんなお兄ちゃんを歓迎するよ」

 家族に出迎えられるアンディを想像して、アシュリンは真っ白なページをじっと見つめながら言葉を(つむ)ぎ、最後に笑みを浮かべる。

 そして、旅立った兄の手紙を読みながら『帰ってくる日が楽しみ』と話していたことを思い出し、アンディに視線を移した。
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