御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
第1章

1. 本社のキラキラ御曹司


 今朝の情報番組でやってた星座占い、天秤座が一位で気分が良かったのに。早めの行動を心がけるとなおよい、との言葉を鵜呑みにして、いつもより十五分も早めに出勤して、さっそくいつもと同じ床磨き作業に取りかかろうとしたのに。

「おはよう、秋月(あきづき)ちゃん。今日はいつもより早いね~ぇ」

 秋月(あきづき) 美果(みか)、同じフロアにいるといつも近寄って絡んでくる紳士服専門店の中年男性に出勤からほんの数分で捕まる。最悪だ。

 げんなりとした気持ちで男性の姿を確認して、さらに項垂れる。占いで言ってた『ラッキーカラーはネイビー』絶対嘘だと思ってしまう。彼が着用しているスーツの色は、ジャケットもパンツもまごうことなきネイビーブルーだ。

 男性は胸元にネームプレートをつけているが、見ていないし覚えるつもりもないので、名前すら知らない。男性が勤める紳士服専門店はこの五階フロア内で一番大きい店舗で、さらに彼はそこのチーフを務めているらしいが、だからといって美果が彼を尊敬しているわけではない。

「秋月ちゃんは今日も真面目だなぁ。俺、本当に感心してるんだよねぇ」
「あの……お掃除、したいんですけど……」
「ん? 清掃の開始は八時からでしょ~? まだ時間あるんだからさぁ~」
「いえ、でも……」

 笑顔を崩さないままでどうにか切り抜けようとするが、空気が読めないのか、それとも時間が読めないのか、男は美果の行く手を阻むように通路を塞ぎ続ける。

(じゃ、邪魔~~~!)

 仕事の邪魔。ただこの一言に尽きる。

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