御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「ほら、翔さん。早く起きて朝ごはん食べ……!?」
仕方がない、と思って翔の肩をゆさゆさ揺すると、目を瞑ったままの翔に突然その手首を掴まれた。
え、と声を出す暇もなく強い力に腕を引っ張られる。勢いでバランスを崩した美果は、翔の体温で満ちたベッドの中にドサッと倒れ込んだ。
「ちょっ……や、っ」
驚いた美果はすぐに起き上がろうとしたが、布団の中から伸びてきた腕が腰に絡みつく。さらに先ほどまでスマートフォンを掴んでいた手で肩を抱かれ、ベッドの中に全身を引きずり込まれる。
翔に布団の中で抱きしめられていることに気づくと同時に、至近距離で目が合う。その直後、翔がにこりと微笑んだ。
「おはよ、秋月」
「お、起きてるじゃないですか!」
「今起きた」
そう、美果の数か月にわたる奮闘の甲斐があったのか、彼は声をかけ続ければ七時半にはしっかりと覚醒してくれるようになった。
ただし「遅刻させてしまう」と焦って翔の部屋に押し入った一週間前のあの日から、こうして部屋に入ってベッドの傍で直接声をかけなければ、リビングまで起きてこなくなってしまったのだ。
「早く準備して……って、離して下さいっ……!」
そしてこの一週間、毎日のように狸寝入りを使っては、美果をベッドに誘い込んでからかおうとする。
最初の日は「なんでここにいる?」と驚いたような焦ったような顔をされてしまった。だが翌日からは、美果が部屋に入るまで返答すらしてくれなくなった。
急な密着に驚いて抵抗しても、力は強まるばかりでまったくゆるむ気配がない。翔が美果の耳元で囁く。