御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「ん……良い抱き心地……」
「やっ、だめ……っ!」
首筋に息がかかると背中がぞくぞくと震える。自分でも恥ずかしいと感じているこの反応を翔に気づかれたくなくて、つい大きめの声を出してしまう。
だが美果が抵抗しても、腰からお尻へ移動する手も、背中に下りてくる肩を抱く腕の動きも止まらない。寝起きの割に力は強いし、翔の匂いに包まれていると心が落ち着かなくなるし、美果はもうパニック寸前だというのに。
「やだ、翔さん! もう離して……セクハラで訴えますよ!」
「わかったわかった」
翔の家で働き始めてから少し経った頃、彼の秘書である誠人から『これ、我が社のハラスメント対策室の連絡先です』と小さなカードを渡されていた。もらった時は翔相手に使う機会なんてないだろう、と思っていたが、これは立派なハラスメント案件だ。
そう思って口にした言葉は効果てきめんだったらしく、翔がパッと手を離してくれた。慌ててシーツに手をついてベッドから起き上がると、少し離れた場所から乱れる息を整えて翔を睨む。
「ついからかいたくなるんだよなぁ」
「つい、じゃありません。もう起こしませんよ」
「それは困るな」
美果の文句を聞くと翔もようやくベッドの中で身を起こしてくれる。だが一週間前から朝はずっとこんな調子で、美果は身体を張って翔を起こさなければならなくなってしまった。
実際はあの日も遅刻するどころかいつもより少し早く起きられたし、だし巻き玉子を美味しいと褒めてくれたことも嬉しかったが、その代償として激しめにじゃれつかれることになってしまったのだ。
朝から毎日、恥ずかしすぎる。