御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
気を取り直してカーテンを開けると、朝の光を室内に取り込む。だが生憎と今日の天気は雨だ。それも、かなり強めの。
「今日は雨がひどいな」
「そうですね……梅雨の時期ですから」
天ケ瀬家の家政婦として雇われてもうすぐ半年。中途採用扱いなので規定により額はやや低めではあったものの、先日はじめて夏のボーナスが支給されたので、借金の完済もぐっと近づいた。たが気分は少し憂鬱な日が続いている。
理由はこの日本特有の気象現象――洗濯物は乾きにくいし、カビは発生しやすいし、買い物に行くのも大変な〝梅雨〟の存在である。
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家政婦業務をこなす夕方までの間、美果は時折外を眺めては雨足が遠退くことを期待していた。だが外の状況はますますひどくなるばかり。
「うーん……雨、やっぱりすごいなぁ」
今日はここ数日の中でも特にひどいかもしれない。関東の梅雨といえば比較的勢いの弱い雨が長くだらだらと続くイメージだったが、ここ数年はバケツをひっくり返したような激しい雨が長時間続くことも珍しくなくなってきた。
今日はその厄日らしく、正午頃から雨足がどんどん強まり、今はまさに集中豪雨の真っ只中。気象情報アプリを確認すると雨雲の動きが悪く、あと数時間はこの状態が続くとの予報が表示されている。
「これはバスもダメかなぁ……」
美果は翔のマンションまで電車で通勤しているが、豪雨の日は電車もバスも遅延するし、利用客はいつもより多くなるし、車内も蒸れるので空気が悪い。
場合によっては駅の構内が冠水したりバス停が雨漏りしたりすることもあるし、普段なら三十分ほどの通勤時間に三時間以上を要することもある。