御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「お……お風呂の準備もしますね!」
一瞬だけボーッとしてしまったが、翔の表情に見惚れてはいられない。
さすがに夕食の時間にはまだ早いが、この後もう外出しないのならばすぐにお風呂に入るかもしれない。美果はいつも家政婦業務の最後にお風呂の湯沸かし予約をしていくので、今はまだお湯張りが完了していないのだ。
「別に雨に当たったわけじゃないから、風呂は後でいい」
慌てて浴室へUターンしかけたが、翔は特に急がなくていいと仰せだ。
「それよりお前、この雨で帰れるのか?」
ふとした問いかけに振り向くと首を傾げる翔と目が合ったので、そのままピタリと動きを止める。どうやら翔は、この豪雨のせいで美果が帰宅できないのではないかと心配してくれているらしい。しかし心配は無用だ。
「帰れますよ。多少濡れると思いますし、電車もバスも遅延してるかもしれませんが、一応動いてるはずなので」
大なり小なり遅延や不便はあるし、帰宅に時間はかかってしまうかもしれないが、気象情報アプリや運行情報アプリによると公共交通機関は止まっていない。今のところは。
ただいつもより帰宅ラッシュの時間がずれ込みそうだから急いだほうがいいかも、と思っていると、翔が意外な提案をしてきた。
「泊まっていけば?」
「……え?」
「部屋は余ってるし、来客用の布団もあるだろ」
美果の動きが止まる。泊っていけば? の意味も、部屋は余ってる、の意味も咄嗟にはわからなくて。