御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 突然の提案に廊下のど真ん中でぽかんと口を開けると、美果の様子を見た翔がにやりと笑った。今朝と同じ、美果をからかうような表情で。

「まあ、俺のベッドで一緒に寝てもいいけどな」
「!?」

 さらに衝撃的な誘い文句が続いたので、つい変な声が出そうになる。その声を抑え込むように、翔のビジネスバックを胸の前でギュッと抱きしめる。

「い、いえ……大丈夫です!」
「ん? 女子が泊まるには足りないものが多いか?」

 美果は翔の提案を固辞したが、彼は首を傾げるばかり。しかも美果の心配とはまったく違う問題点を理由として挙げられる。そういうことではなくて。

(翔さん、モテるんだろうな……)

 その顔を見ていて、ふと思う。

 清掃の仕事をしていた頃はもちろんのこと、この家で家政婦をするようになってからも翔の浮いた噂なんて一度も聞いたことがない。美果にも隙を見せないよう注意しているだけかもしれないが、女性を連れ込んでいたこともなければ、出張以外で外泊をする姿も見たことがない。

 結婚をしたくないという話は聞いていたが、まさか恋愛も一切しない、というわけではないだろう。だがあっさりと「ベッドで一緒に」と口にするところを見れば、彼が女性の扱いに慣れているのは明白だ。もちろん、翔がさぞモテるだろうことも容易に想像できる。

 それに今はそのつもりがなくても、いずれは結婚を考えなければならない時がくるはずで。

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