御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
6. 雨ふる夜に
「翔さん、お風呂ありがとうございました」
「ん」
入浴を済ませてリビングに戻ると、ソファに腰を下ろしてテーブルに置いたノートパソコンを見ていた翔に声をかける。顔を上げた彼は少し驚いたように動きを止めたが、すぐに小さな声で短い返答があった。
「というか、秋月が自分でお湯沸かして自分で掃除してるのに『ありがとうございました』は変じゃないか? 俺は何もしてないぞ」
「いえいえ、お風呂をお借りしている身ですから」
翔は遠慮するなと言わんばかりに美果を労ってくれるが、美果は翔の生活環境を整える代価として給料をもらっている身だ。
今夜はあくまで非常事態ということで許されているが、本来は翔のために掃除した場所を美果が使用するのは誤りな気がする。
「それに服も……ブカブカですけどね」
「そりゃそうだろ、身長も体型も全然違うからな」
それだけでも恐縮しきりなのに、今の美果はナイトウェア代わりに翔のTシャツとルームパンツまで貸してもらっている。
これも美果が洗濯してアイロンをかけたもので、明日も美果が洗濯をして返却する予定だが、それでも快く貸してくれたことには感謝しかない。この際、広く開いたシャツの襟ぐりから鎖骨が見えてしまうのもご愛嬌だ。