御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 外ではまだ雨が降り続いている。あの後さらに雨風が激しくなり、ベランダに雨だれが打ち付けられる音の激しさのせいで一時はテレビの音も聞こえないほどになった。

 今はそれより幾分か雨足が弱まったが、何度『今からでも帰ります』と宣言しても『業務命令だって言ってるだろ』と返されるだけで翔から帰宅の許可は下りなかった。

 その押し問答に心苦しさと申し訳なさを感じる反面、嬉しいこともあった。

 翔が帰宅してきたとき、美果はまだ夕食を作り始めたばかりだった。よって美果の宿泊が決まってからでもシチューの量を増やすことが可能だったので、夜は翔と一緒に食事を摂ることになった。

 誰かと食卓を囲むのはかなり久しぶりだった。最初は『一緒に食べるなんて申し訳ない』と恐縮していたが、ダイニングに向かい合うと必要以上に遠慮をするよりも、二人で摂る食事の時間を楽しんだ方がお互いに有意義であると考えを改めた。

 家事の報告や翔の仕事の話、秘書である誠人の話など他愛のない雑談を交わしながら食事を終えると、後片付けと明日の朝食の下ごしらえをして、翔と入れ違いにお風呂を借りた。

 少し雨足が弱まったタイミングでマンション近くのコンビニから下着と歯ブラシと一泊分のスキンケアセットを購入してきていたので、翔のシャンプーやボディーソープを拝借すればどうにか宿泊は可能だった。

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