御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 明日は翔は休暇だが、美果は家事をする予定となっている。通勤の必要がないのでいつもより遅い時間に起きても大丈夫そうだが、就寝はいつも通りの時間にしたいところだ。

 挨拶をしようと翔に近づくと、翔がノートパソコンをパタンと閉じた。一見すると自然な動作だったが、なんとなく美果が近付いたせいで閉じたようにも感じられる。

「? お仕事していらしたんですか?」
「あ、いや……」

 美果の位置からだと画面は一切見えなかったが、もしや仕事の邪魔をしてしまったのかもしれない。歯切れの悪い翔の様子から申し訳なさを感じたが、彼は美果に意識させないようそっと話題を逸らしてきた。

「これは仕事じゃない。早めに切り上げたから今日は多少持ち帰ったが、俺は基本的に家で仕事をしない主義だ」
「そういえば、そんなこと言ってましたね」

 その話は以前聞いた気がする。翔は仕事の時間とプライベートの時間を完全に分けることで、オンとオフをしっかり切り替えているのだそう。それはもちろん、素晴らしい考え方だと思う。

 では一体何を? と思ったが、翔が少し気まずそうに視線を逸らすので、おそらくこれ以上深掘りされたくないのだろうと感じた。もちろん美果も翔の仕事についてすべて把握したいとは思っていないし、当然邪魔をしたいとも思っていない。

「明日は土曜日ですけど、起こした方がいいですか?」

 美果もサッと話題を切り替えて明日の予定を訊ねる。

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