御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 これまでにも翔の休暇日と美果の出勤日が重なったことはある。だがテーブルの上に伝言もしくは事前の指示がない限り、いつもは勝手に起きてくるまで寝かせておくことにしているのだ。

「雨が止んでいたら一人でも帰れますし」
「送っていくって言ってるだろ。絶対起こせ」
「わかりました。じゃあお昼に二回起こしても起きなかったら、勝手に帰りますね」

 実際のところ翔が昼まで寝ていることは滅多にないが、とりあえず朝早く起こす必要はないらしい。あとは明日、状況に応じて帰宅方法を決めることにしよう、と結論づけて頭を下げる。

「それでは、おやすみなさい」
「ちょっと待て」

 美果は就寝の挨拶をしてぺこりとお辞儀をしたが、その頭を持ち上げる前に翔から制止の言葉をかけられた。

「お前どこで寝るつもりだ?」
「え? 物置きにしてるお部屋に、お布団敷いちゃいましたけど……」

 フロアの南側はすべて翔の生活スペースである。北側はゲストルームらしいが、ほとんど使っていないし美果も数回しか入ったことがない。一応定期的に清掃業者は入っているが、急に寝泊まりするにはやや心許ないので、今日は翔が生活しているこちらのスペースのうち空いている部屋を借りることにした。

 しかし美果の返答を聞いた翔が訝しげに眉を寄せる。明らかに不満の表情だ。

「ベッドで寝なきゃ身体痛くなるだろ」
「大丈夫ですよ。折り畳みのマットレスがあったので、それも敷きましたし」

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