御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「とにかく、一緒になんて寝ませんから! おやすみなさいっ」
一瞬でも翔の隣で眠る想像をしてしまった自分が恥ずかしい。
また翔が『業務命令だ』と言い出すのではないかと冷や冷やしたが、冷静に考えればそんなはずはない。
美果が風邪を引いて明日の仕事を休めば翔にも影響があるので、それを回避するための宿泊の命令ならギリギリ納得できる。だが美果と添い寝をしたところで、翔に得られるメリットなんてなにもない。
翔のつまらなさそうな表情と本気で美果を求めるような声に絆されて、思わず頷きそうになるなんて。イケメンって恐ろしい……と思いながらリビングの扉を後ろ手に閉めた美果には、翔が呟いた「手強いな」という台詞は耳に届かなかった。
* * *
「あ、起きた。おはよう、秋月」
「!」
誰かに呼ばれた気がしてふと目を覚ますと、美果が寝ている布団のすぐ傍で翔があぐらをかいてこちらをじっと見ていた。膝の内側に頬杖をついて楽しそうにこちらを観察する彼の顔を見た瞬間、一気に覚醒する。
腹筋を使って勢いで起き上がると、枕元に置いたスマートフォンを起動させて時間を確認する。
午前五時五十八分――まだ目覚ましのアラームをかけた時刻より二分も早い。
「び、びっくりした……おはようございます」
「おはよ」
てっきり寝過ごしたのではないかと焦った美果は、ほっと安堵しながら朝の挨拶を返した。だがすぐに、いくつかの疑問が思い浮かぶ。