御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

「翔さん、なんでこの部屋に……?」

 なぜこの部屋にいるのだろう。美果が布団を敷かせてもらった場所は翔が普段使わない荷物を置く書斎兼物置部屋だが、普段はほとんど足を踏み入れている様子がない。だから何か用事があったのだろうかと疑問に思う。

「っていうか、自分で起きれてるじゃないですか!」

 いや、それ以上に不思議なのは、いつも必死に叩き起こしても中々起きないくせに、なぜ休日である今日に限ってこんなに早い時間に起きているのだろう。

「今日はお楽しみがあったからな」
「お、お楽しみ?」
「そう、秋月の寝相と寝顔を見る楽しみ」
「!?」

 翔が楽しそうに笑う。その言葉と仕草に、一体いつから見ていたのだろう、と驚愕する。

 翔は今朝、美果を観察するためにわざわざ早起きしたらしい。驚きのあまり目を見開いて動きを止めてしまうが、驚きも一周回ると呆れに変わる。

 起きる目的があれば自力で起きれるのならば、普段から一人で起床できるはずなのに……と、本人に言っても無駄なのだろう。それが出来るのなら、美果も誠人も困らない。

「寝顔、可愛かったぞ?」
「感想とかいいですから、早く忘れてください……」
「なんだよ、本心なのに」

 なんだか弱みを握られた気分だ。
 いつもより寝姿が乱れていなかったのが不幸中の幸いである。

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