御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
番外編 -Side.翔-:天ケ瀬御曹司の焦燥
帰宅してまっすぐクローゼットルームに向かうと、ネクタイを引き抜いて袖のボタンを緩める。
今夜も帰宅時刻に合わせて風呂の湯沸かしが完了しているはずだし、ダイニングテーブルには温めればすぐに食べられるよう夕食が準備されているはずだ。
どっちを先にしようかと考えながらワイシャツのボタンを外していると、廊下からドタバタとけたたましい足音が聞こえてきた。
「しょ、翔~~っ!」
誠人が血相を変えてクローゼットルームに飛び込んでくる。『急にトイレに行きたくなったから、翔の家のトイレを貸してほしい』と言われたので、送ってもらった流れで一緒に部屋まで上がってきていた。だが用を足し終えるには少々早すぎる気がする。
まだシャツすら脱いでいない翔がボタンを外す手を止めて振り向くと、部屋の扉に手をかけた誠人が荒い呼吸を繰り返していた。
「なんだよ、うるせーな」
「お前トイレのアレなに!?」
「……トイレ?」
どうやらトイレの扉を開けた誠人は、中で何かを発見したらしい。虫でもいたのかと思って首を傾げると、誠人が興奮気味に廊下の向こうにあるトイレの方向を指さした。
「窓枠のところにすげー可愛いネコチャンいたんだけど!?」
「ああ、あれか。秋月が置いていったんだ」
何事かと思ったら、家政婦の美果がトイレの窓枠に設置した、陶器でできた猫の置物に驚いたらしい。