御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
確かに翔には、生活に必要のないインテリアを飾る習慣がなかった。昔から整理整頓が苦手で勉強道具やプリント、社会人になってからは資料や書類もとりあえず重ねて積み上げてしまうことが多く、身の回りは常に物で溢れかえっている状態だった。そのため翔には、わざわざ不要なものを傍に置く余裕がなかったのだ。
しかし美果が翔の家を掃除して整理整頓するようになってからは、『身の回りが乱れていても、頭の中さえ整理していれば問題はない』という考えが覆った。
周囲が整理整頓されていると、欲しい情報を引き出す際の速度と精度が上がる。探し物にしてもたまに持ち帰った仕事をするにしても、綺麗な空間の方が効率が良いことに気がついたのだ。
美果が翔の生活環境を万端に整えてくれるおかげか、今では自分でも驚くほど快適でゆとりのある生活を送っている。以前は誠人が月に一、二度のペースで家の掃除をしてくれていたが、それとは比べものにならない。
思えば誠人にも申し訳ないことをしていた。と思いながら彼の顔を見ると、不思議そうに首を傾げられた。
「なんでまた?」
「トイレが可愛い方が気分がいい、とかなんとかで」
美果いわく、掃除の負担を減らすためにはまず散らかさないことが大事なのだそう。