御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 それについては誠人の言う通りだ。以前は誠人が掃除に来た直後以外はどこも物が溢れて雑然としていたし、空気もいつも淀んでいた。

 だが美果を家政婦として雇ってからは、家の中は常にぴかぴかに掃除され清潔が保たれている。

 明るくなったという彼の感想も本当で、天井のパネルを外して中を掃除したと言われたときは本当に驚いた。翔にはそんなところを掃除をするという発想すらなかったが、実際、蛍光灯は変えていないのに廊下が見違えるほど明るくなった。

 さらに翔自身の身体にも意外な変化が訪れた。夜は寝付きやすくなったし、朝も以前よりすんなり目覚められるようになった。顔色もよくなった気がするし、なにより朝も昼も夜も時間になればちゃんとお腹が空く。美果のおかげでだんだん〝人間らしさ〟を思い出していく気がするのだ。

(毎朝送り出してくれるのに、帰ってきたらいないのは……虚しいけどな)

 けれど不満もある。その可愛い家政婦である美果が、自分を男としてまったく意識してくれないのだ。

(夕方以降は自由にさせてるし、誰かと出会うきっかけも……)

 一般的な会社員より早く出勤させている代わりに早く退勤する美果は、夕方以降に普通よりも暇な時間が多く出来る。

 ならば仕事が終わった後は恋人のところに足を運び、その相手の帰りを待ちながら翔に作ったものとは違う料理を作り、翔が一人で寂しく夕食を摂っている間二人で楽しく食事をしている可能性も、ゼロではない。

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