御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 だから先日、あえて美果を引き留めて無理矢理この家に宿泊させた。家に泊める理由として『豪雨』だけではやや弱いことはわかっていたが、多少強引になっても美果を『自分の家に宿泊させる』ことには意味があった。

 結果はおそらくシロ――誰かに連絡を取りたがったり、頻繁にメールを打ったりする素振りがなかったことから、翔が想像するような状況は……美果に恋人がいるという状況はないと思う。

 ただし『今のところは』だ。

 その翌日スーパーでキャバクラ時代の客と思わしき男に迫られていたところを見るに、おそらく美果は異性にモテる。美人で可愛い美果が家事まで完璧に出来ると知れば、世の男性は間違いなく彼女を放っておかないだろう。美果に恋人が出来るのは、正直時間の問題だ。

(いっそ恋人を作る時間なんて与えないように、勤務時間を変更させて……)

 ――いや、それはだめだ。確かに美果が誰かと出会う時間を奪えば恋人が出来る可能性は減るかもしれない。だがこれまで苦労してきた美果に、過度な労働はさせたくない。

 人間らしく文化的な生活を送ってほしい。その価値と必要性を知ってほしい。美果の健康と生活と幸福を守るために、翔は彼女を傍に置いているのだ。

 かと言って時間を後ろ倒しにして夜に勤務させれば、毎朝身体をゆすって可愛く起こしてくれる時間も、玄関で送り出してくれる癒しの時間もなくなる。

 それどころか朝からベッドルームに乗り込んできた誠人にフライパンとおたまを打ち鳴らされて喧しく起こされる生活に逆戻りする。真っ平ごめんだ。

「翔、トイレさんきゅ」
「あ……あぁ」
「じゃ、明日も同じ時間に」

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