御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
第3章
1. なんか来た
今日もいつものように、何度声をかけても呼んだけでは起きてこない翔の寝室に入る。
最近『もしかして狸寝入りをしているのでは?』と思うこともあるが、実際にそうだとしても、本当に眠っていたとしても、八時までに準備を終えて翔を仕事へ送り出さなければならないという最終目標は変わらない。
「翔さん、朝ですよ~! 起きて下さい!」
ベッドルームに入ると、まずは彼のベッドではなく窓辺に近付いてカーテンを開ける。一人暮らしにしてはやや大きい寝室は当然のように窓もカーテンも大きく、ただ開くだけでも力を使う。
ジャーッとカーテンレールの中をランナーが滑ると、すぐに部屋いっぱいに朝の光が入り込む。
もうすぐ梅雨明け。最近は少しずつ雨の日も減り、晴れの日もちらほら見られるようになってきた。梅雨が終われば気温も一気に上昇してくると思うが、朝から晩まで曇天が続くよりは日差しを浴びた方が身体も健康的でいられるだろう。
振り向くと布団がもぞもぞと動いている。翔が布団の中に戻ろうとしているらしい。
「おはようございます、翔さん……そろそろ七時半……わぁっ!?」
その布団を剥がそうとして端を掴んだ瞬間、布の隙間からにゅっと飛び出てきた手に手首を掴まれた。あっ、と思った時にはすでに遅く、今日もまた翔の巣に引きずり込まれる。
さらに腰を抱き寄せられてぎゅっと強く抱擁されると、急な密着に変な声が出そうになる。だが本当に悲鳴をあげそうになるのは、いつもこの後だ。
「おはよう、美果」
「……っ~~!」