御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
本当はトーストにはマーマレードジャムの組み合わせにしようと思っていたが、ああして叫んでしまった以上、朝はモッツァレラチーズトーストに変更するしかない。
冷蔵庫を開いて「チーズがあってよかった」と呟いた美果の顔は、今日も風邪を引いたように熱く火照っていた。
* * *
「これでよし、と」
最後に味噌汁の味見をして夕食の準備を終えた美果は、ぐっと背伸びをして壁にかかったガラス製の時計を見上げた。
午後二時四十五分。今日も時間内にすべての仕事を終えられそうだ。
「あとはお風呂の予約をして……」
外したエプロンをダイニングチェアの背もたれにかけると、廊下を横切って脱衣場へ向かう。さらにお風呂の栓を閉じて電子パネルのお湯張り予約を押すと同時に、ふと遠くで意外な音が聞こえた。
ガチャ――という金属が動く音は、玄関の方向から聞こえたようだった。
「ん? 宅配かな?」
てっきり宅配業者が来たのかと思った。
だがよく考えたらここは美果の住む一軒家ではなく、翔のマンションである。部屋に来るためにはエントランスのモニターに鍵を差すかコンシェルジュに話を通してオートロックを通過して、エレベーターに乗って、南北に分かれるフロアの南側のインターフォンを押さなければ、玄関まで辿り着けないセキュリティなのだ。
通常、時間指定があるものや生もの・冷凍ものなどの温度管理を要する荷物以外、宅配物はすべて一階にいるコンシェルジュが預かってくれることになっている。
だが今、明らかに玄関の扉が開く音がした。