御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 また翔が早退してきたのだろうか、と廊下から玄関を覗いた瞬間、美果の声が驚きでひっくり返った。

「だ、誰……!?」
「! え……あなた誰っ!?」

 しかしそれは相手も同じだったらしく、入ってきた女性は美果の顔を見るなり悲鳴に近い声をあげた。

 相手は美果と同じ二十代半ばほどの外見年齢で、美果よりも少しだけ身長が低い小柄な女性だった。さらさらロングストレートの黒髪に、前髪はまっすぐに切り揃えられ、グリーンの清楚系ワンピースにライトグレーのミニバッグを手にしている。

 日本人形のような奥ゆかしい愛らしさと、流行を上手く取り入れたワンピース姿――なんかすごく可愛い子がやってきた、というのが美果の第一印象だった。

「ここで何してるのよ! あなた泥棒?」
「え? いえ、違いますよ!」

 ただし態度はややきつめである。まだ距離があるしお互いのことを何も知らないというのに、美果を見るなり泥棒呼ばわりしてくる。

 咄嗟に否定するも、女性は不機嫌を隠すことなく美果を見る眼をスッと細めた。

「ここは翔様のご自宅でしょう?」
「そ、そうです……」

 セキュリティの特性上絶対に間違えるわけがないが、もしや天文学的確率を突破して間違えて迷い込んできたのかもしれない。と考えたが、相手はここが翔の自宅であることを知った上でやってきたらしい。

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