御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

2. 怒りの理由は


 しまった。完全にやってしまった。

 確かに翔の婚約者だという女性の登場にはモヤモヤしたが、翔からの連絡を無視するつもりなんてなかったのに。

「絶対怒られるよね……うう」

 萌子の高飛車な態度に気持ちが負けてしまったのか、帰宅した美果の気分はずっと落ち込んだままだった。独学でこっそり進めていた『世界遺産検定』の勉強に向き合う気持ちも作れず、リビングのソファに横になると、最近やっていなかったソーシャルゲームの世界にひたすら没頭した。

 夕方からずっと同じ体勢でゲームを続けていたせいで、目も身体も疲れたのだろう。午後七時に『これからもう一つ会議がある。終わったら電話する』という翔のメッセージには『わかりました』と返信したにもかかわからず、美果は結局、そのままソファで寝落ちしてしまった。

 美果自身もまさかゲームのやりすぎでスマートフォンの充電が切れ、その間に翔から鬼のように電話がかかって来ていたとは夢にも思わなかった。

 すっかり爆睡してしまった美果が次に目を覚ましたのは、午前0時を少し過ぎたところ。

 スマートフォンのバッテリーが切れていることに気がついて、大慌てで充電を開始した。だが翔からの十件以上の着信と『なんで電話に出ないんだ』『連絡してこい』という怒りのメッセージを確認したときには、常識的に考えて他人に連絡をしていい時間をとうに越えていた。

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