御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
ただでさえ気が重かったのに、絶対に説教されると分かっている。美果は翔からの連絡を無視した形で翌朝の出勤時刻を迎えてしまったのだから。
電話に出れなかったことを猛省しながら、いつも通りの時間に翔の家へ到着する。玄関に入ってその場を見回すと、そこには翔の脱いだ革靴が一足置いてあるだけ。昨日ちらりと見た萌子の深緑色のローファーはないようだ。
朝早くに帰宅したのかそもそも宿泊しなかったのかはわからないが、とりあえず萌子はすでにこの家にいないらしい。
(よかった……これでもし一緒に寝てたら、起こすの気まずいもん)
ほっと一安心しながらいつもと同じように洗面所で手を洗って、ダイニングルームに入る。バッグを下ろしてパーカーを脱いだ美果はエプロンを着けながらキッチンに回ったが、ふとシンクの中を視線を向けた瞬間、驚きの声をあげてしまった。
「え……なにこれ……!?」
シンクの隅に寄せてある三角コーナーの中身は、昨日夕食を作り終えた後で生ごみ処理ボックスにすべて移動させたはずだ。にも拘わらず、三角コーナーには大量の生ごみが捨ててある。
(これ、昨日作った晩ご飯……?)
一目見ただけですぐに気づく。捨てられているのはおかずである豚肉の生姜焼き、和風サラダの生野菜、味噌汁の具材の豆腐とわかめ――美果が昨日、翔のために作った夕食だ。しかも生ごみの量から、おそらくどの品も一切口にしていないと思われる。
さすがにショックを隠せない。
これまで翔が美果の作ったご飯を残したことは一度もなかった。だから味が気に入らなかったとしても、捨てられるなんて考えもしなかった。