御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
そんなことをして本当に大丈夫なのだろうか、と思ったが、いずれにせよ美果に決定権はない。家政婦である美果は、雇い主である翔に言われた通りに行動するしかないのだから。
「それと夜、美果に話したいことがある」
とりあえず話はまとまった――と思ったが、翔はまだ美果の身体を離してくれない。それどころかこれまでよりも真剣に、強い意思を示すように美果の腰を抱いてじっと顔を覗き込んでくる。
「お互いに落ち着いて、冷静に頭が働く状態で、ちゃんと俺の話を聞いてほしいんだ」
「あ、あの……翔さん、私っ」
いつになく生真面目な前置きに驚いて翔の言葉を遮ろうとしたが、口を塞がれたのは美果のほうだった。ただし今度は、唇ではなく彼の細く長い指先で。
「もし断られても、俺は諦めるつもりはない。けど心の準備をする時間ぐらい、くれてもいいだろ?」
真剣な声と切なさを滲ませた表情で語られると、また心臓がうるさく響き始める。翔の黒い目に吸い込まれて、底なしの蜜の沼に突き落とされる感覚を味わう。
ほんの数秒あるいは数分。翔と静かに見つめ合っていた美果だったが、ふと彼が真面目な表情を崩して少し困ったような笑顔になった。
「ところで、美果……腹減った」
「え?」
「昨日、晩飯食ってないんだ」
さらりと告げられた言葉に驚いて目を見開く。それから、なぜ? と顔を顰める。