御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

3. これは溺愛契約ですか?


 インターフォンから玄関の開錠を求めるコール音が聞こえたので、すぐにロック解除ボタンを押す。三分ほど前にエントランスのオートロックを解除した際に相手が翔であることを確認していた美果は、彼を迎えるべく廊下へ踏み出した。

「ただいま」
「お、おかえりなさい……翔さん」

 玄関に赴くと翔からビジネスバッグを受け取る。彼が帰宅するタイミングに遭遇することは滅多にないが、たまに迎え入れる機会があるときは、いつもこうしてバッグを受け取ることにしている。だが今日は、なかなか視線を上げられない。

「美果。なんでこっち見ないんだ?」
「え……いえ、そんなことは」

 気づいた翔に指摘されたので慌てて顔を上げる。ばちりと目が合うと優しげな笑顔を向けられて一気に恥ずかしさを覚えたが、一度指摘されている美果はもう俯くことが出来ない。

「ぎょ、業者さん……鍵の付け替えしていきましたよ」

 代わりに話題を逸らすと翔が「そうか」と短く頷く。

 上手く追及を逃れたことに安堵した美果は、エプロンのポケットに手を入れて中に忍ばせていた三枚のカードキーを取り出した。これが先ほど付け替えたばかりの、翔の部屋の新しい鍵である。

 美果が住む一軒家や友達が住む集合住宅の玄関と違い、翔のマンションの鍵を付け替えるのは時間がかかる大変な作業だった。

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