御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
ただ鍵そのものを交換するだけではなく、リビングにあるインターフォンと連動させたり、一階でコンシェルジュが確認用に使っているシステムと連動させる設定も必要らしい。
美果が残業を命じられた理由も納得で、鍵の付け替えとシステム設定の作業をすべて終えたのは、今からほんの三十分前の話だ。
「一枚は美果に」
「え……あっ、はい」
翔にカードキーを手渡され、一瞬だけ動揺する。
鍵を付け替えるきっかけとなったのは、翔の婚約者である稲島萌子の突撃訪問だ。その萌子の来訪を防ぐためにわざわざ鍵を付け替えたのに、美果が簡単に受け取ってもいいのだろうか。
しかし考えてみたら当たり前だ。美果は翔の家の家政婦である。
彼の起床より早く出勤するためには一人で室内に入るための鍵が必要で、今までもそうしてきた。これがなければ美果の雇用契約は成り立たないのだ。
「今日の晩飯は?」
手渡されたカードキーを見つめていると、靴を脱いで廊下に上がった翔が美果に些細な質問をしてきた。
「え、えっと……ホタテが安かったので、炊き込みご飯を作ったんです。あとはお吸い物と、和惣菜を何品か」
「へえ、美味そうだな」
「っ……」