御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
翔の笑顔に、つい言葉に詰まる。
今の「美味そう」はあくまで料理の話だが、以前の言葉を思い出したせいか、なんとなく他の意味も含まれているように感じてしまう。一度そう考えてしまうと、今度は翔の一挙手一投足にまで妙な緊張を覚え始める。
そう。美果は今朝、唇を強引に奪った翔から『夜に話したいことがある』と言われていた。『お互い落ち着いて、冷静に思考が働く状態で、ちゃんと俺の話を聞いてほしい』と宣言されていたのだ。
「あの、翔さん。朝言ってたお話って……」
「……。食べてからにしようと思ってたんだけどな」
この妙な緊張感を一刻も早く終わらせたい。どうにか無事に乗り越えたい。そう考えて翔から答えを引き出そうとすると、彼が少しだけつまらなさそうな声を出した。
「まあ、いいか」
だがこの時間も美果に残業代が発生していることを思い出したのか、それとも彼自身も早く何かを伝えたいのか、美果の提案が却下されることはなかった。
「美果、ここに座って」
「……はい」
ここに、と告げられた場所は、リビングルームのソファだった。
指示された通りに三人掛けの大きなソファに腰を下ろす。体重をかけるとゆっくりと沈んでいく座り心地にほっと和む美果だったが、隣に翔が腰を下ろすとまた緊張感が高まった。