御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

3. 御曹司コワイ


 席から消えた翔がどこへ行ったのかと疑問に思う美果だったが、探る必要も考える必要もなかった。

(あ、いた)

 Lilinの出入り口がある二階から一階へ続く階段を下りていくと、路上に置いてある電飾の看板に寄りかかるように、翔が佇んでいた。

 こちらに背を向けているので美果の存在には気付いていないようだが、斜め後ろから見る艶やかな黒髪と背格好から、その人物が間違いなく翔だと把握する。

「だから、いらねぇって言ってるだろ」

 しかし翔が背を向けたまま発した言葉が美果の想像とあまりにかけ離れていたため、思わず動きを止めて目を見開いてしまう。自分に言われたのかと思った美果は、一瞬『え、小野田さま、煙草要らないんですか?』と聞きそうになった。

 だが不要だと言い切った翔がいつまで経ってもこちらに振り向かない様子から、彼の言葉が自分に向けられたものではないと理解する。

「俺は結婚なんてしねーって……は? いや、だから必要ないって」

 一人でいるのに会話をしている姿から、どうやら翔は誰かと電話をしているらしいと気づく。それはもちろん自由にしてくれていい。けれど。

「なんで? じゃない。仕事の邪魔なんだよ」
「……?」
「家政婦も必要ない。俺が他人を家に入れるの嫌いだって、知ってるだろ」

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