御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「今朝は、悪かった」
「い、いえ……」
「美果に『他の女を気にかけてる』と思われたくなかった。『私には関係ない』と言われたことがショックで強引なことをした。……反省してる、ごめんな」
「そんな……大丈夫、です」
翔が申し訳なさそうに再度謝罪をしてくれる。
だが本当に、気にしなくても大丈夫だ。
もちろんファーストキスを突然奪われた衝撃はあった。自分の思考と感情と身体の反応がぐちゃぐちゃになった結果、思わず泣いてしまった。けれどわざと傷付けられたわけではないし、翔のキスが嫌だったわけでもない。本当に、少しびっくりしてしまっただけで。
むしろ泣いてしまったことや翔の唇の感触を思い出すと、とてつもなく恥ずかしくなってくる。後から思い出すほうが照れるので、出来れば思い出させないでほしい。
そんなことを考えていると、翔に真剣な声で名前を呼ばれた。
「俺は、美果が好きだ」
たった一言。心の準備もなく、身構える時間もなく、わかりやすい告白をぽつりと呟く。その潔すぎる翔の台詞に美果の時間が停止する。
あまりにも自然かつ冷静に宣言されたので思わずぽかんと口を開けて翔の顔を見上げる。すると目が合った彼が、美果の困惑を受け止めるように優しく微笑んだ。
「一生懸命で真面目なところが可愛い。家族思いで義理堅いところも気に入ってる。自分を苦しめる姉を捨てきれない優しさも知ってる。もちろん料理が美味いところも好きだ」
「え……? え、あ、あの……?」