御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
翔が『惹かれた』と語る美果の態度は、特別優れていたり特別奇抜なわけではない。美果にとってはごく普通のものばかりだった。
そう、天ケ瀬百貨店東京の従業員に絡まれているのを翔に発見されたときから、美果は『とにかく面倒事に関わりたくない』と考えていた。助けてくれたことはありがたいし翔の姿を目の保養になるとは思ったが、それ以上の関わりを持ちたいとは一切思っていなかった。
だから線引きをするつもりでごく普通に接したし、近づきすぎていると感じたときは自然さを装って離れるよう徹底していた。翔に監視されていると気づいてからも、とにかく普通の態度を貫いた。
それはもちろん、彼の専属家政婦として雇われて以降も同じ。美果は翔を特別な存在として扱わない。あくまで家主であり雇用主、世話をするべき相手としてしか翔を見ていなかった。
「けど最初は居心地が良かったはずなのに……今はそれが面白くない」
「え……ご、ごめんなさい……?」
「ああ、いや違う。そうじゃなくて」
美果の態度が気に入らないと言われているように感じて、不快感を抱かせていたのかと慌てて謝罪する。だが翔は、今のはそういう意味ではない、と少し焦ったように首を振る。
「俺を『特別』に思ってくれないことが、悔しくてたまらないんだ」
先ほど近づいた距離をまた数センチ詰められる。翔の真剣な眼差しに照れて視線を逸らそうとするのに、それを許さないと宣言するようにグッと肩を抱かれる。