御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「これでもアピールしてるつもりだった。見つめて、撫でて、抱きしめて、言葉にしなくてもわかるぐらい意思表示してきたつもりだった。……けどまさか、本当にまったく気づいてなかったなんてな」
落胆を隠さない翔の様子を見ると、途端に申し訳ない気持ちが湧き起こる。
「あの……ごめんなさい。私、本当に恋愛経験がまったくなくて……」
確かに翔は美果をじっと見つめたり、身体や頭を撫でたり、おそらく狸寝入りだろう罠を張ってまで美果を抱きしめたがる。
けれどこれまで恋愛と呼べる体験や誰かに恋心を抱いた経験がなかった美果は、自分に向けられる言外の好意を酌み取る能力を持ち合わせていなかった。必要に応じて人の行動に先回りすることは出来るのに、翔の心の内を正確に捉えることは出来なかった。
「翔さん、私がキャバクラに勤めてたから経験豊富だと思ったんですよね? でも私、他のお仕事との兼ね合いで同伴出勤もアフターもしたこともないんです。だから恋愛の経験なんてないですし、そもそも恋愛をするという考えも……」
「……それ全部蹴っても普通にキャバ嬢として成り立ってたって、逆にすごくないか」
「え?」
「いや……美果、やっぱり本当はモテるだろ?」
「いえ、だからそんなわけなくて」
翔が美果の肩を抱いたまま、少しムッとしたように顔を覗き込んでくる。
翔の言い分はよくわからないが、モテるだろ? と訊ねる表情はあからさまに不機嫌だ。翔の視線が面白くない、と訴えてくることに気づき、唐突に先ほどの告白を思い出す。翔は、美果が好きだ、と真剣な声で――