御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「美果。俺と付き合ってほしい」
「えっ……?」
翔の言葉を思い出して照れていると、再び驚きの台詞を告げられた。思わず瞬きをすると、翔がはっとしたように美果に顔を近づけてくる。
「稲島の娘のことなら、あれはお袋と向こうが勝手に言ってることだぞ? 俺は一切知らないし、承諾した覚えもない。さっき確認したら社長も知らないと言っていた。だから俺には本当に婚約者なんていないし、稲島の娘にもまったく好意はないからな?」
「あ、そ……そうですか……」
翔が『心配はない』と真剣に言い募るが、美果が気にしているのは萌子の件ではない。もちろん突然彼女が突然やってきて高飛車な言動をされる不安や懸念が完全に無くなったわけではない。
だが今朝の翔の言い分や容赦なく鍵を付け替えてしまう行動の早さを考えれば、彼が萌子を好ましく思っていないことは美果の目にも明白だった。
だから美果の心配や不安は、ここにいない他人の行動や考えに対してではない。他でもない、自分自身の気持ちだ。
恋愛の実体験はないが、最近はたまにテレビドラマを観ている。だからロマンスの世界では『好きだ』と『付き合おう』がセットだというのもなんとなく知っていた。友人たちの恋の話を聞いていても、大体一つがやってきたらもう一つもついてくるので、それが自然な形なのだとうっすら認識はしているけれど。