御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
4. キラキラ御曹司、再び
美果が翔のパートナーとして出席することになったのは、六店舗目の天ケ瀬百貨店となる『天ケ瀬百貨店横浜』のオープンを大々的に発表するためのパーティーだった。
横浜にあるホテルの大ホールを貸し切り、大勢の賓客やメディアを集めて大型商業施設の創設を盛大に祝う――その開宴の三十分前、会場内に設置されたソファに腰を下ろした美果は、緊張のあまりカタカタと震えていた。
「森屋さん、もう無理です……吐きそうです……」
「あはは、大丈夫ですよ」
着替えとメイクとヘアセットを終えて翔を待つ間、美果の傍には誠人がついてくれていた。知り合いがいない中で誠人が一緒にいてくれることはありがたいと思ったが、どうやら彼も翔と同じぐらいに美果をからかうのが好きらしい。
「お手洗いすぐそこですから」
「え。大丈夫って、そういう意味なんですか?」
「ああ、でもドレスは汚さないでくださいね。それ結構いい値段しますよ」
「うぐ」
ただでさえ緊張で胃がキリキリしているというのに、誠人がさらに緊張感を高めるようなことを言う。
正直、美果はずっと泣きたい気持ちだった。
翔からパートナーとしてパーティーに出席して欲しいと提案を受けたが、本来の契約にはない業務内容のため、一応断ることも可能ではあった。美果は丁重に断ろうとしたが、翔から『美果に断られたら俺はショックで朝起きられないかもしれない。俺が遅刻したら美果は職務怠慢で減給になるかもな』と脅され……説得された。