御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
だが今になって後悔している。減給される方がマシだったかもしれない。まさかこんなに大きいパーティーに『あえて注目を浴びるために』引っ張り出されるなんて。
「でも本当に、大丈夫ですよ。貴方をサポートする人は翔や俺だけじゃないですから」
表情筋が固まるほどの緊張感と戦っていると、誠人がふと優しい声でそう語り掛けてきた。サポート? と顔を上げると、誠人がにこにこと笑顔を浮かべる。
「せっかくだから挨拶しておきますか?」
「え?」
「煌さん、希さん」
誠人が会場の入り口に向かって少し大きめの声を出す。すると丁度ホール内へ入場してきた一組の男女が、誠人の呼びかけに気づいてこちらへ近寄ってきた。
髪を明るく染めた背が高い細身の男性と、同じく背が高いミディアムボブにパンツドレス姿の女性が、慌てて起立した美果の前に並び立つ。そんな美果の姿を見た男性が、誠人に向かって不思議そうに首を傾けた。
「誠人くん、その人だれ?」
「翔の家政婦さんだよ」
「はじめまして、秋月美果と申します」
「ああ! 君が例の!」
誠人に紹介されたのでお辞儀をすると、美果の挨拶を聞いた男性が楽しそうな声を上げた。
「初めまして。僕は天ケ瀬煌。天ケ瀬百貨店本社の人事部所属で、人事部長の補佐をしてます」
「同じく天ケ瀬百貨店本社の経理部で経理部長をしています、天ケ瀬希です」
「煌さん、希さん……」
丁寧な自己紹介をしてくれた二人に思わず見惚れてしまう。